ロマン主義と芸術

ロマン主義は、芸術と密接につながる思想である。思想の起点を古代、とりわけギリシャ神話の中に配置しつつ、芸術における絶対性の獲得に倣い、精神の自由としてのイロニー的自我の実現を、その一つの目標として企てる。その原動力となるのは、人間と自然との失われた統一、その統一を回復させる創造力、そしてそのような創造力によって獲得される精神の絶対的自由への憧憬である。

そのような衝動を導いたのは、近代社会を支配する自然の放逐や精神の機械化が引き起こす不満や喪失感で、それが古代の神話を憧憬させた。ロマン主義は神話を、有限性からの脱出を導くテクストとして参照する。神話とは、有限と無限、人間、自然、神とが融合する宇宙の形成のことであり、そこではあらゆるものが意識の上に直感されることで自然が再現され、全体性が回復される。そのような神話を追放したのがキリスト教で、地上にあった神話世界を駆逐し、神を天上へと向かわせ、宇宙を歴史へと塗り替えた。ロマン主義は、包括的な自然把握と、自然に宿る神性の直感を通じて、世界の神話化(生命化)を企てる哲学で、分析的で理性的な思惟とは一線を画する思想である。

このようなロマン主義において、芸術思考はそれを全体的に把握する「ポエジー」として語られる。ポエジーとは分析的悟性から切り離された想像力のことであり、その力が包括的な世界構想の鍵となる。想像力とは、有限と無限、実在と観念とを同一化し、有限な世界を無限なものとして象徴化する構想力のことで、それは芸術の定義と一致する。ロマン主義おいて美と趣味は、芸術としてのポエジーによって記される。

ポエジーによって示される自我と世界との神秘的な交信を通じて、両者が分裂する以前に存在した根源的自我との再会が模索される。そして、主体と客体、精神と自然の二元論が、ポエジーによって成し遂げられる、芸術の絶対化による世界の神話化を通じて克服される。

イロニー

ロマン主義を語る際に必須となる用語のひとつに、「イロニー」がある。「イロニー」とは、精神における絶対的自由への願望の現れのことであり、現実の自己と世界とを俯瞰する。ロマン主義的な想像力としての「ポエジー」は、イロニー的自我の表出としても捉えられる。「イロニー」において、創作と反省、自己創造と自己破壊、芸術と批評とが一つになる。ロマン派の哲学は、「イロニー」という絶対的自由への願望に神話を加味することで、世界と自我との調和を要求する。(イロニー的戯れの典型がアラベスクで、それはポエジーの本質を表現する。)

ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel、1770 - 1831)はこのようなイロニーを病的憧憬として糾弾する。「イロニー」のいう宇宙とは主観化された宇宙であり、すでに虚構と化している。「イロニー」とは主客関係が消滅した、すべてが主観の世界であり、外界との接点を欠く、単に肥大化した自我にしか過ぎない。

ロマン主義は現実から離れ、非現実を内面化し、それを精神内部に創造させることによって、目的の完遂を目指す思想である。したがって、それに属する芸術は空想とのからみで現実を失い、現実から遊離することに加え、美の自律性は曖昧になる。ロマン主義は過剰に浸され、内部に哲学的な矛盾を抱える近大思想のひとつだが、その影響力は絶大で、様々な再解釈を通じて、次世代の思想や芸術へと受け継がれいった。

参考文献
美の変貌:当津武彦(編)、世界思想社、1988
ボードレール:ベンヤミン著作集、川村二郎・野村修(訳)、晶文社、1975

ベンヤミン

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