ロバート・スミッソン、ブロークン・サークル - スパイラル・ヒル

「ブロークン・サークル - スパイラル・ヒル(Broken Circle - Spiral Hill)」はアメリカの現代美術家、ロバート・スミッソン(Robert Smithson、1938 - 1973)がオランダのエメン市(Emmen)郊外に制作したランドアートである。水郷に構築された直径141フィート(約43m)の「ブロークン・サークル」と、その直近の丘に盛り上げられた直径72フィート(約22m)の「スパイラル・ヒル」との、ふたつの構造体で構成される作品で、市の中心部から北東へ約2.3kmの場所にある土砂採石場跡(Zand-Grint-En Grondwerken De Boer)北側の一画に位置している。

作品は同国で1971年に開催されたアートフェスティバル、「Sonsbeek'71」への参加作品として、当初は公園への立地が予定されていた。だが、作品制作を開拓行為だとするスミッソンはその計画に難色を示し、改めて彼の意図に沿った作品制作が可能な土砂採石場跡地へと、設置場所が移された。作品はフェスティバル終了後の解体が予定されていたが、エメン市の要請で永久保存されることになる。その当時のランドアートには、鑑賞者が立ち寄りがたい僻地で制作され、その後は自然の崩落に任されるというものが少なくない。立ち寄りやすい都市郊外に制作され、行政的に保存管理される本作品は、ランドアート、とりわけスミッソンの作品の中でも、概念的に多少異なる位置に置かれる作品である。

スミッソンの作品概念

スミッソンは美術家としてのキャリアを、ミニマルアートの評論と制作からスタート開始した。ミニマリズムは、ゲシュタルト理論や現象学を参照し、鑑賞者にも一定の役割を持たせることで、作品空間に時間性を組み入れる等、観念的な形式主義美術に対峙する前衛的な試みであるが、彼はそこにエントロピー(Entropy)や虚無(Void)といった概念を下地にする、独自の思考を加味することで、それから一歩踏み出た作品を制作した。彼は作品を「場(サイト)」として、それを外部へと拡散させる各媒体との間にできるネットワークを強調することでオブジェを解体し、脱中心化への道筋を模索した。

スミッソンは中心となる作品をまず戸外で展開し、それをすでに痕跡となった「場」として、写真、映像、テキスト等を通じて鑑賞者のもとへと拡散する。作品を単なるオブジェとしての存在から開放し、思考の場へと発展させてゆくのが彼の戦略で、それが彼のランドアートを、単なる屋外彫刻と差異化する。

「サイト・ノンサイト(Site / Non-Site)」と題された一連の作品では、中心として僻地に存在する「場」を、現物(その場で採取された土石)、写真、地図、映像、言語、スケッチ等に収め、失われた「場」の痕跡として、都会に位置するギャラリーに展示する。「場」を単なる差異として痕跡化するプロセスの中に、不在(Void)としての場の存在を問い掛け、脱中心化の図式を示すのが彼の手法であり、アメリカのサルトレイクに制作された代表作、「スパイラル・ジェッティー(Spiral Jetty)」をはじめ、彼の一連のランドアートにおいても、その手法が踏襲されている。

ブロークン・サークル - スパイラル・ヒル

巨大なランドアートを眺める行為においては、作品を単に対象として眺めるのではなく、その場の時間の経過の中で起こるスケールの変化を感じつつ、作品を風景の一部として体験することになる。鑑賞者は風景との交錯の中で変化し続ける作品のスケールを目の当たりにしながら、無意識のうちにもその意味を理解する。それは、スミッソンの言葉を借りるならば、場の差別化と非差別化の中で起こる、差異無き場の体験といわれるもので、その行為は見るというより触手に近く、そこに展開する空間とは、触覚的空間と呼べるものである。草地、採掘場、崖、湖といった分断された風景で構成されるエメンの土砂採掘場跡の地勢は、そのような作品体験を得るのに打ってつけの場所である。

それとは別に本作品には、荒廃し破棄された場を芸術として再生させる、ランドリクラメーションという目的が存在する。人的行為によって荒廃した土地をマーキングすることで、その行為を警鐘すると同時に、その場に美的価値を付け加え、土地の再生を図ろうとする行為が、スミッソンが提起するランド・リクラメーションである。都市郊外にある荒廃地、土砂採掘場跡に制作される本作品では、とりわけ芸術による土地再生というアイデアが生かされる。一方、本作品には、彼の諸作に通底する概念も内包されており、彼は関連する映像作品を計画していたが、未完のままに終わっている。

巨礫

「ブロークン・サークル - スパイラル・ヒル」は、文字通り「ブロークン・サークル」と「スパイラル・ヒル」というふたつの構造体で構成されているが、その二重性が作品に対する知覚の分散と、それ自身の脱中心化に寄与している。脱中心への指向は、スミッソンの作品概念の精神を示すものなのだが、本作品には一抹の曖昧さが同居する。その曖昧さはブロークン・サークルの中心に位置し、それを特徴づける巨礫によってもたらされている。

オランダには珍しく、この場所には前史時代においてモニュメントを構築する際に用いられたとも伝えられる巨礫(きょれき、boulder)がある。巨礫は作品に中心となる焦点を与えるだけではなく、その存在感がサークル周縁部へと向かう知覚を侵食する。それは障壁として、鑑賞者がブロークン・サークルに立ち入る際に、その視線を巨礫の周囲に集中させる。この障壁は写真を真上から見たときのように、サークル周縁の連続的な湾曲が吸収することで、ある程度の回避は可能だが、それだけでは根本的な解決には至らず、当初スミッソンは、巨礫の円周外への移動か、その場への埋設を希望した。

スミッソンは、巨礫をこの地に伝わるフン族のベッドと呼ばれる地面に埋め込まれた船形の葬室と折り重ねることで、それを失われた意志として、肯定的な見方をしようとも試みた。だがそれはやはり作品にとっての台風の目、その荒涼とした場所の壊疽であることに変わりはない。しかし彼は最終的に巨礫を受け入れた。写真でこの場所を観察し続けるうちに、彼は中心にある陰影のような塊に次第に魅せられるようにもなり、最終的に巨礫をエラーであり、悪として受け入れることに同意した。

Google Mapによる位置

参考文献
The Collected Writings: Robert Smithson, Jack Flam (Ed.), University of California Press, 1996

The Collected Writings

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