アーロン・シスキンド

アーロン・シスキンド(Aaron Siskind、1903 -1991)は、1940年代後半から1950年代にかけての冷戦時代に活動のピークを迎えた、アメリカの写真家である。

シスキンドの代表的な写真には、死や復活をテーマにしたものが少なくない。シスキンドは、街角等の身近な場所に素材を見つけ、それを部分的に拡大し、フィルムに納める。彼はまた、人体の動きの痕跡、とりわけある種の極限的な動きにも興味を示す。都市や自然の一部から切り取られた有機的な形態や、人が直面する極限的な状況を被写体にする一連の作品からは、シュールレアリズムからの影響も伺える。彼は対象を断片的に、また逆説的に利用することで、都市とそこに住む人間の神経症的側面を寓意的に描き出す。

シスキンドの代表作に数えられる、壁や地面、様々なオブジェを被写体とする作品では、近接撮影による浅い奥行きと、白黒写真特有の強いコントラストが、被写体の持つ象徴的意味合いを高めている。彼は動きの無い壁、地図等の平面や、魚頭、グラブ、フォークといったありふれた対象から、詩的なカリスマ性を抽出し、それを生と死のメタファーとして強調する。

シスキンドの作品にはシュールレアリズム的な要素とともに、大戦で味わった恐怖やトラウマとしての人間の極限状態を示す記憶や、冷戦時代の社会的慣習からの逃避といったテーマが温存されている。一連の壁を題材にした作品では、シスキンドの初期の写真に描かれていた様々な公共標識が、落書きや異なる壁と壁との境界と共に、それ本来のサイン=記号としての生命を失ったかのごとくに描写され、都市における物語性の欠落や、抽象的な進歩と退廃のシンボルとして再構築されている。

シスキンドはフォルムを意識したクローズアップ作品の撮影を1940年頃から開始しているが、そのコンセプトはすでに初期の作品において示唆されている。彼は1932年頃から社会派ドキュメンタリーの一環として、ニューヨークの貧民街をモチーフに大恐慌時代の情景を写真に収めてきた。だが、彼の静寂で孤独感が漂う平板な作風は、通常のドキュメンタリーとは一線を画するものであり、そこには後年の作風に通じる独特なニュアンスが存在する。

シスキンド初期のスナップでは、あたかも銅像であるかのように人物が描写され、その姿は背景にあるサイン、看板、建物等がつくり出す幾何学的構成の中に埋没される。そのような無機質な統一感による静寂さや不動の感触が、後のクローズアップ作品において、一層強調されたかたちで開花する。静寂や不動とはまさに死のイメージそのものだが、死と復活はシスキンドの作品からは切り離せない重要なテーマのひとつである。

シスキンドは空白感に満ちた都市とそこに住む人間の姿を、様々なオブジェを通じて残像や痕跡として描写する。それはテーゼの切断、断続された表記として読み取ることも可能であり、その点において彼の写真には、同時代に興隆していた抽象表現主義絵画との共通項が見出される。写真は即時的な描写による時間の断絶と、場面の切り取り(クロップ)による空間の断絶という二重の断絶性を示す媒体である。シスキンドの一連の作品ではそれに加えて、クローズアップによって破棄された写真特有のパースペクティブが平面性を強調し、またそうした断絶と破棄によって表象される無機質さが物語性を否定する。

参考文献
Abstract Expressionism: David Anfam, Thames and Hudson, 1990
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